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【ガイドライン】抜歯等の歯科処置で必要な感染性心内膜炎の予防投与

 

心疾患を持った患者さんが自分の医院に来たら気をつけたいこと。

それは観血的処置をする際には、感染性心内膜炎の予防投与が必要ということです。

じゃないとエライことになる可能性が高いです。

「そういやそんなこと聞いたことあるけど、実際よくわからん」

と同僚がぼやくので、じゃあ僕がまとめようか、と思った次第であります。

というわけで、ガイドライン見ながらしっかり勉強していきましょう!

この記事の内容は、以下の文献から引用していきます。

【ダイジェスト版】
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)

http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_miyatake_d.pdf

そもそも感染性心内膜炎って?

感染性心内膜炎は弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集蔟を含む疣腫(vegetation)(注1)を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害など多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である.

菌血症が起こってから,症状の発現までの期間は短く,80%以上の例では2週間以内である.
感染性心内膜炎の臨床症状は,亜急性あるいは急性の経過をとる.
亜急性感染性心内膜炎では,発熱・全身倦怠感・食欲不振・体重減少・関節痛等の非特異的な症状を呈する.
症状は徐々にみられ,その発現日は通常特定しにくいが,抜歯,扁桃摘除等と関連している場合もある.

抜歯等の歯科処置の際に口の菌が血管に乗って心臓までたどり着く。

そして心臓に細菌の塊ができるわけですね。

細菌に侵されてしまった心臓はもちろんのこと、血管や他の内臓、全身に症状が出るといったところでしょうか。

治療方法は?

感染性心内膜炎の治療において重要な点は,心内膜・弁に形成された疣腫から原因となった病原微生物を死滅させることである(表3).
疣腫には血流が乏しく,貪食細胞の影響を受けにくいことから,疣腫内の菌を殺菌するには十分な抗菌薬の血中濃度が必要で,かつ投与も長期間となる.
治療薬の選択にあたっては原因菌が判明しているかどうかが非常に重要であり,血液培養検査の意義は大きい.
菌が分離されたなら必ず感受性試験を行い,最少発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)を測定する.
また抗菌薬は高用量・長期間投与となるため,可能な薬剤については血中濃度のモニタリング(therapeutic drug monitoring,TDM)を行い適切な投与計画を立てる(バンコマイシン,テイコプラニン,アミノグリコシド系薬).

感染性心内膜炎の治療成績は,感染早期の活動期に外科治療が導入されるようになって飛躍的に向上してきた.
単独内科治療に比し,外科治療成績がはるかに勝っていることが示され,外科治療の意義が感染・心不全・塞栓症の3つの病態について次第に明らかにされてきている.
しかし臨床的に安定した患者の手術死亡率がおよそ5%であるのに対し,合併症を有する複雑な病態にある患者では30%と高率であることも事実である.
重篤な合併症を発症する以前に的確に病態が把握され,外科治療が導入されることが望まれる.

内科的な治療と外科的な治療の2種類あるようですね。

これは僕達歯科医師が出る幕ではなさそうですね。

専門のお医者さんにお願いしましょう。

対象となる心疾患は?

一般人より心内膜炎リスクが高い患者はハイリスク群としての認識が必要である.
米国のガイドラインでは,ハイリスク患者の中でも特に心内膜感染症が生じた場合,合併症が生じやすく,死亡率が高いような心疾患を,ほかのハイリスク患者とは区別して取り扱っている.

しかし,わが国のガイドラインでは,感染性心内膜炎になりやすい基礎疾患(ハイリスク群)すべてに対して,抗菌薬の予防投与を推奨する
ClassⅠとⅡaに分けたが,これは,AHAのガイドラインの変更を意識したものであり,感染性心内膜炎に罹患しやすい基礎疾患にはあまねく予防的抗菌薬投与を行うという姿勢に変更はない.
これは,わが国では,抗菌薬の予防投与を通じて,感染性心内膜炎に対する注意を喚起するという副次的な意味があるからである.
表11に,抗菌薬による予防を推奨する心疾患を示す.

表11  歯口科手技に際して感染性心内膜炎の予防のための抗菌薬投与
ClassⅠ
特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患
で,予防すべき患者
•生体弁,同種弁を含む人工弁置換患者
•感染性心内膜炎の既往を有する患者
•複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管
転位,ファロー四徴症)
•体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者
ClassⅡa
感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防したほうがよ
いと考えられる患者
•ほとんどの先天性心疾患
•後天性弁膜症(詳細は本文)
•閉塞性肥大型心筋症
•弁逆流を伴う僧帽弁逸脱
ClassⅡb
感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高いことは証
明されていないが,予防を行う妥当性を否定できない
•人工ペースメーカあるいはICD植え込み患者
•長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者

敢えて予防をする必要がないとされているものには,
①心房中隔欠損症(二次口型),
②心室中隔欠損症・動脈管開存症・心房中隔欠損症根治術後6ヶ月以上経過した残存短絡がないもの,
③冠動脈バイパス術後,
④逆流のない僧帽弁逸脱,
⑤生理的あるいは機能的心雑音,
⑥弁機能不全を伴わない川崎病の既往,
⑦弁機能不全を伴わないリウマチ熱の既往
がある.

口腔外科の先生や、病院歯科の先生ならピンと来るんでしょうか?

僕みたいなしがない町の歯医者にはちんぷんかんぷんです。

最低でも、全てのハイリスク群で予防投与が推奨されている、っていうところだけ覚えておけばいいでしょうか。

どんな歯科処置がリスクになるの?

歯口科における手技・処置
歯の衛生状態が不良であったり,歯周や歯根尖周囲に感染症のある場合には,歯科手技・処置をしなくても菌血症が発症することがある.
口腔内の炎症(歯肉炎)は,病原微生物が血液に侵入する状態を作り出す.
従って歯科治療を行う前にこの炎症を抑えておくことは重要である.

表12 抗菌薬の予防投与を必要とする手技
ClassⅠ
感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与をしなくてはならないもの
歯口科
出血を伴ったり,根尖を超えるような大きな侵襲を伴う歯科手技(抜歯,歯周手術,スケーリング,インプラントの植え込み,歯根管に対するピンなどの植え込みなど)

まずはプラークコントロールを確立して口を綺麗にする!

そして虫歯や根尖病巣等の感染源は除去。

でもスケーリングやう蝕処置の時は感染性心内膜炎になるかもしれないから、事前に抗生物質の予防投与をしてね、という具合。

出血しなければ予防投与はいらないんですね〜。

無麻酔でC1のCRとかシーラント、InやFCKのセットでしょうか?

Hys処置やフッ素塗布も大丈夫かな?

予防投与に使う抗生物質は?

米国のガイドラインの標準的予防法は,アモキシシリンの単回経口投与である.
アモキシシリン,アンピシリン,ペニシリンVのα型溶血性連鎖球菌に対するin vitroの効果は同等であるが,アモキシシリンが消化管からの吸収がより良好で,より高い血中濃度が達成され,より長く維持される.
このためアモキシシリンが推奨される.

成人用量はアモキシシリン2.0 g(小児用量は50 mg/kgで成人用量を超えない用量)で,処置予定の一時間前に投与する.

処置が6時間以内に終了すれば,追加投与の必要はない.

投与量の根拠となる研究の対象の平均体重は70 kgであり,血中濃度が体重と大きく関連していた事実もあるので,わが国においては必ずしも2.0 gが必要量ではないと思われるので,体重の少ない女性では,1.0~1.5 gという投与量の選択も十分に理解できるところである.

今回のガイドラインでも,2.0 gという数字のみを表に掲載し,投与量の調節については主治医の裁量を認める形で付記をつけることにした

ペニシリン(アモキシシリン,アンピシリン,ペニシリンなど)にアレルギーのある患者には別の経口抗菌薬を使用する.
クリンダマイシンはその1つである.
第1世代セファロスポリン(セファレキシンまたはセファドロキシル)に耐えられる患者では,ペニシリンに対する局所の,または全身のlgEによる即時型アナフィラキシー反応の既往がない限り,これらの薬剤を投与してもよい.
ペニシリンアレルギー患者に非経口投与が必要な場合には,クリンダマイシンが推奨される.
また,患者がペニシリンに対して全身または局所の即時型アナフィラキシーを示さない場合には,セファゾリンが投与できる.
以上をまとめ,表15に示した.

アモキシシリンが第一選択のようです。

商品名で言うとパセトシン、サワシリンあたりかな?

1カプセル250mgなので、2.0g投与するには8カプセルを患者さんに飲んでもらう必要がありますね。

子供の場合は50mg/kgなので、例えば10kgの子に投与する場合は500mgが必要。

10%の細粒なら5.0gですね。

カプセルが飲めない子の場合は全て細粒で処方するわけですが、全部溶かすとすごい水分量になりそうですね…。

アレルギーがある人、経口投与不可の人も表にまとまっていてわかりやすいです。

患者さんに渡したいメモ

 診断の遅れのために不可逆的な合併症を起こしてしまう事例が多いという事実を勘案し,ハイリスク患者に持たせるガイドメモを提案した(表16).
歯科治療をはじめ危険が高い手技を受ける時の注意,感染性心内膜炎を疑うべき症状とその対応について述べてある.
これを患者が携行することにより,疾患の早期発見が得られると考えられる.

表16 ハイリスク患者のためのカード
あなたは,感染性心内膜炎(心臓の中の弁や,内膜に細菌などがつき,高熱や心不全,脳梗塞,脳出血などを起こす病気)をおこしやすい心臓病があります.
そこで
1.歯を抜いたり,歯槽膿漏の切開などをしたりする場合には適切な予防が必要となります.必ず,主治医の歯科医にそのことを伝えて,適切な予防処置を受けてください.
2.歯槽膿漏や,歯の根まで進んでしまった虫歯などを放置しておくと感染性心内膜炎を引き起こしやすくなります.定期的に歯科医を受診して口腔内を診察してもらいましょう.
3.口腔内を清潔に保つために,歯ブラシや歯ぐきのケアを怠らないようにし,正しく歯科医の指導を受けてください.
4.感染性心内膜炎を引き起こす可能性が示唆されている手技や手術があります.手技や手術を受ける前に,実施医に感染性心内膜炎になりやすいことを伝えてください.
5.高熱が出た場合,その熱の原因が特定できない場合や,すみやかに解熱しない場合には,安易に抗菌薬を内服してはいけません.その場合には,循環器科の主治医に相談してください.

歯科医師側の理解も大事ですが、なにより患者さん自身の理解も大事です。

ほとんどの先生は問診やアンケートで心臓等の病気のことをお聞きしますが、うっかり抜けちゃうことが無いとは言い切れません。

なので、患者さん自身から申告することによって、歯科医師側もちゃんとした対応策をとってくれるでしょう。

そのためにも、こういった患者さんに持ってもらうメモがあると大変便利ですね。

結局どうする?

ここまで色々まとめてきましたが、「結局どうすればいいの?」というところに落ち着くでしょう。

僕としては、まずは医師に対診をとることが先決かと思います。

ガイドラインに色々書いていますが、患者さんのことは主治医が一番よくわかっています。

早まって処置を開始するよりも、まず先に対診を取るほうがいいんじゃないでしょうか?

  • 心臓の疾患名
  • 歯科処置時の感染性心内膜炎リスク
  • 予防投与につかう抗生物質の種類と量、タイミング
  • その他アレルギーや麻酔使用可否などの注意事項

これらを聞いてから処置を始めても遅くはないはず。

自院で対処するのが難しい場合、すぐに大学病院や口腔外科に紹介しましょう。

あとは何かあった時の緊急対応ですかね。

近くの内科や循環器の先生と連携する。

救急車を呼ぶ。

などなど。

自分の医院で「もしものこと」が起きた時の対策を考えておく必要があるでしょう。

なんとなく理解していたつもりになっていた感染性心内膜炎ですが、まだまだ知らないことがたくさんありました。

自分なりにまとめられてよかったと思います。

いい勉強になりました。

皆さんの参考になれば幸いです。

僕は医者ではなく歯医者です。
なので、この記事はあくまでも歯科的な立場から考えたものになります。
より詳細な情報や解説が必要な方は、本家のガイドラインを見るか、医師に相談して下さい。

他の参考リンク

感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
オリジナル版
JCS 2008
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_miyatake_h.pdf

European Society of Cardiology
Infective Endocarditis (Guidelines on Prevention, Diagnosis and Treatment of)
ESC 2015
https://www.escardio.org/Guidelines/Clinical-Practice-Guidelines/Infective-Endocarditis-Guidelines-on-Prevention-Diagnosis-and-Treatment-of

Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications
A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association
AHA 2015
http://circ.ahajournals.org/content/132/15/1435

Infective Endocarditis in Childhood: 2015 Update
A Scientific Statement From the American Heart Association
http://circ.ahajournals.org/content/132/15/1487

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